Jリーグ・川淵幻想について(4)

9月にFacebookのタイムラインで連載した物の最終回です。

とにかくこの時(以前からですけど)腹が立って仕方なかったのは「川淵さんが来れば一気にプロ化が」とか「川淵さんなら今と違ういい方向に」とかいう発言が平気で出てくる事。
それって「あんたの思う、あんたの白昼夢にのっかった漠然とした期待」でしかない訳ですよ。実際にBリーグ始動の際は、時間的な制限があった事から特にbj側の意見をかなり切り捨てたし価値観を破壊しているのね。自分がその立場にいたらどういうかい? という「ちょっと報道を追っかけていれば判る筈の事実すら調べない」のがどうにも我慢できなかったのね。
ちなみに、現状スタジアム問題を含めて「プロ化」なんて言ったら、「5チームは地方に移転」「4チームは現状のホームタウン」「3チームを合併新設」「あとはおとりつぶし」という結果--ホームに残るのは富士通(川崎)、オービック(習志野)、パナ(吹田)、名古屋。合併新設は明治安田+ライズ(八王子にするか相模原にするか)、東京ガス+リクシル(調布)、エレコム+飲料(神戸)。残りは他競技との競合もあるが、札幌、仙台、新潟、広島、福岡あたりに移転--という構図になりそう。
ただ、これにしても「その都市で、アメフトが高校・大学を通じて認知され、常時8千人規模の動員が可能で、Jとかと開催がスタックしなくて」という構図が出来上がって初めて通用するものなのですわ。

あとね。これは凄い昔大阪の人に言われたんだけど

「関西には、平日ナイターを仕事帰りに見に行く文化はない」

という事に、後々頷いてしまった。これは「じゃあ阪神はどうなのさ。大阪と言えば阪神じゃん」という指摘もあるんだけどね。
実は、関西の昔からの野球場って、住宅街に出来ている訳ですよ。唯一大阪球場は阿倍野だけど、あれだって南海電車の沿線向け。阪急は西宮、阪神は尼崎、近鉄は藤井寺と、都心じゃない訳ですわ。つまり梅田に通っている人でも、甲子園に行くのは阪神電車沿線が主で、町としてはホワイトカラーの人たち。阪急神戸線とは客層の色合いが違い過ぎる。
さらに高槻の人がわざわざ反対方向に行くことはないと。三田の人が不便囲って行くこともないと。これは大阪ドームも一緒だとか。
つまりかなり多くの大阪人は「アイコンとしての阪神タイガース」は好きで、飲み屋で話の種にするが、実際には大阪生まれ大阪育ちの巨人ファンも居るし、阪神嫌いもいるのだ、と言う訳ですよ。
そういう意味でJXB大阪開催が赤字続きで断念したという噂もよく判る。
※さらに、関西学生が金曜ナイターをやるとだいたい「ファン無視の~」って投稿があるもの。絶対にそういう文化なんだよね。
これは同時にBリーグがNBAのような平日ナイターを開催できない理由でもあると思うのね。

まあ、川淵さんの幻想の原因は、「形にしちゃった事」と「結果だけ追いかけられている事」を、「表面的に捉えてどうこう言う」というのがマスコミの仕掛けだという事で、それに釣られて踊るからこうなるのだよ、という事です。

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J幻想の尤も最たる欠落は、「経営」視点がが欠落している事だ。
つまり、「入場者数収入だけでチーム維持活動費用がまかなえる筈がない」という冷たい現実だ。
「常時・定期的に繰り返し繰り返し試合会場に足を運ぶ者は何人居て、それが入場料いくら払ったときに、どれだけ収入をまかなえるか」を「30年くらいの時間軸で悲観的に推定する」事から始めなくてはならない。
現在のJ3ライセンスの交付基準が平均2000人以上となっているのは、入場料平均が3000円とした場合、1試合600万。年間ホーム16試合として約1億の収入。
しかし、チームの運営には税金なども考慮すると2~3億必要で、その不足分を広告収入で賄わなければならない。
有名な甲府方式(低価格の広告を大量に取る方式)にならって1試合30万の看板広告を得たとして、16試合全てに出して貰って1億。
ただ逆に、未来永劫年間480万の広告費を出すことが可能なのかどうか、である。
さらにユニフォームの胸広告などで1億なんとか叩き出してかつかつ、なのである。
それで選手30人近く、スタッフ20人近くを賄うのだ。
そのままXに当てはめることが出来るだろうか? 選手登録65人なんだぜ?J3の倍は必要だろ?

だから彼らチームは必死なのだ。夢に生きるのに霞を喰らう訳にはいかないから、だ。
ようするに、地域密着とは経営的に言えば「親子三代がチームに金を落とし続ける環境」なのである。地域の人がただ盛り上がっているだけでは話にならないのである。

そういった世界のものと、「伊達と酔狂で」やっているものとでは、同列に語ることなど出来ない。
語る価値もないし意味も無い。

なので、今回発表になったバレーボールの話は、二度目の頓挫を迎えることになる。前回もVリーグのプロ化を目指して会長自身がクーデターで失脚した。その時と全く同じ展開(事前に個別のディスカッションをしていないのが明らか)を繰り広げている。
J幻想と異なる世界で基礎をかためてからでないと、上手くいかないという好事例をまたしても積み上げる気なのか。

そこはいいとしても、単独のリーグの普及だけでいい訳がないのは、J以外のサッカーカテゴリーについてもちゃんと考察しないといけない訳で、そこを考察した普及・強化について振れたリーグを見たことがほとんどないのは何故?
きちんと整理していかないと、立ち枯れするだけなのだが。
そこが理解できていない人が多いのが、気にかかる。

とにかく、Jリーグ・川淵幻想から離れる事が一番なのだ。参考にこそはすれど、真似ても意味は無い。そういうものな筈である。

Jリーグ・川淵幻想について(3)

9月にFacebookのタイムラインで連載した物の3回目です。

ちょっとまとめ切れていませんが、フランチャイズの「地域密着」は、ゼロから始まったものではないのだという現実をしっかり押さえておかないと、動きゃしやいのですよ。
例えばフロンターレの場合で行けば、もともとヴェルディ川崎の都心指向が露骨で(そもそも「読売ヴェルディ」と呼ばせろというのも、読売グループのスポーツコンテンツ管理の一貫で、かつ本当は東京ドームに招待券ばらまいて満員にする事をイメージしていた)、それに反発した一部の川崎市民が富士通サッカー部に働きかけを強めて実業団から改組したという経緯を、JR南武線沿線の人は観ているのである(従ってJ1昇格までの熱量は凄かったが、昇格とほぼ同時にヴェルディが味の素に移転したので、そこから一度運動はもの凄く下火になった)。
※ちなみに、ホームタウンの隣接禁止というのがJの規定にはある。なので、よく誤解されているがFC東京のホームタウンは小平市と隣接市、ヴェルディは稲城市と隣接する「他のホームタウンに抵触しない市」で、従って調布と府中はFC東京の、狛江と多摩はヴエルディのホームタウン。
したがって、1度目は「富士通城下町のチーム」で、現在は「川崎市宮前区などの市民のチーム」なのである。
この考え方からすると、広島市がサンフレッチェに冷淡な理由もなんとなく察することは出来る。つまり広島市の中核にいるのは広島東洋カープであって、マツダの城下町チームであるサンフレッチェは外様扱いなのである(メインである宇品からメインスタジアムまで遠すぎるしね)。

清水を例外として、だいたい新設チームや移転チームは一度経営破綻に近い状況を経験しているので、実は「地域密着」の前に「下地が存在した」と取るべきなんじゃないかねえ。

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現在J1~J3に在籍するチームの母体を考えてみよう。
・実業団がそのまま改組したもの(オリジナルのうち8チーム。違うのは清水とヴェルディ)
・実業団が移転して改組したもの(アビスパ、鳥栖、ヴィッセル、札幌)
。教員クラブ(京都、鳥取、甲府、山口、鹿児島の元組織であるヴォルガ鹿児島、栃木)
・元々あったクラブの改組(ヴェルディ、愛媛、長崎、福島、金沢)
・J昇格に向けて新規設立(清水、水戸(但しプリマハムを吸収継承している)、草津、藤枝、横浜FC、YSCC横浜、讃岐、長野、相模原、盛岡、大分、岐阜)

つまりだ。現在J1のチームは、甲府以外は全て実業団を母体にしている。
つまり、だ。「企業城下町として地域に根ざしたチーム」がJに上がっていて、実業団でも企業城下町ではなかったところのチームは苦戦している。
その後の努力がものを言うのは事実だが、そのアドバンスはとても大きなものがあった訳である。
自分たちが生き延びるために努力したチームが上に来るのは当然としても、実業団だった所のアドバンスを生かし切れないチームが多数あるのはどうしたことか。

ネットの噂レベルではあるが、J3が出来る事で救済されたチームが幾つかある(J2では、昇格できなかった。その場合には解散が前提であったというチームが複数あるという)。
その上で、リーグが「生き残るためにはこの基準を満たしなさいよ」とクラブライセンス制度を立ち上げてお尻を叩かなくてはならない程脆弱な経営基盤のチームが多いという事実を、もっと理解しなくてはならない。

さらに、チームによってはJ1でも観客席の埋まり具合が凄惨なところもあるし、そもそも4万入るハコで2階席をほとんど開放しないとかそれて成功と言えるの?
失敗してないだけで成功なの?

アメフトなんて「企業城下町」チームゼロだよ(微妙なのがLIXILと富士通とパナ。あとは基本、都市型全国区企業の大都市圏在住者の集合体だから地元への帰属意識が薄い)。
それで何を誰から学べというのか。
もうちょっと頭使ってほしいものである。
(4)に続く(ってか、まとまってないまま強引に話題を変える)

Jリーグ・川淵幻想について(2)

9月にFacebookのタイムラインに連載したものの2回目です。

本文中で触れているように、Jリーグ開幕前にNFLを視察したのは、アメフトに理解があるからではなく、スポーツビジネスとして極めて特徴的な閉鎖システムで莫大な利益を上げるシステムを構築したから、ビジネス的な視点で行われた物です。
また、アメリカのカレッジの収益システムに川淵さんが言及していないのは、運営が多額の寄付金に依存しているという事もあると思いますけどね。

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ここで誤解をしてはいけないのは、川淵三郎が無能であるという偏向的誤解である。

川淵三郎は、優秀なビジネス指導者である。後にセルジオ越後に嫌味を言われた放映権料システム(リーグ一括管理・再配布)は、世界でも恐らくJリーグとNFLでしか採用していないと思われる。
しかしNFLは、その莫大な放映権料収入で、それこそリーグ総資産ではリーガやプレミアの上を行く。全てのスタジアムが5万人以上の規模のリーグで、チームが破綻することないように出来ているNFLを参考にしたのは、実にビジネス的才覚であると言える。
※なので、川淵NFLファン説なんぞというトンデモ理論は成立しない。彼はスポーツビジネスのモデルとしてとしてNFLを研究しただけである。だから詳しいのであって、少なくとも「京大が日本一を争っているようでは駄目」などという発言をするのはアメフト文化を理解していない発言なのである。そして、彼はカレッジフットボールの収益体制については興味を示していない。なぜならサッカー文化の「地域クラブ」とは相反する概念だから。

なので、彼が成功するときは「方向性は決まっていて、それを遂行する為に馬力を掛けるとき」なのである。
それはBリークでも全く変わりなく、彼はもつれた糸を強制的に繋いで整えた、だけなのだ。

さて、ここまで紆余曲折してきたJリーグであるが、果たして本当に成功したのか、というと、ちょっと待てなのである。
元々こじれた糸を解して、方針を決めた事で地域密着という縛りが付いた為に、地元自治体支援の限界に至るチームも複数あるし、そもそもJ3が設立されなければ地域リーグで足踏みして解散危機だったチームもある。上位のチームだって未だに親企業からの広告収入に頼っているところが多い。

例えば大分。ここはトリニータだけでなくバスケもバレーもチームがある。ある意味無理矢理作ったチームであり、定着させるために「強いチームを作って後から収入を稼いで安定化させる」という戦略をとった。結果、W杯用に大分ドーム作ったはいいが芝がボロボロになって自分たちも怪我人を生み、失速して2部降格。おかげで大借金だけが残り社長は追放。現在もJ3でもがき苦しんでいる。
例えば鹿児島。そもそも地域リークで2チームがそれぞれJ参入を狙っていたが、その為に戦力分散を招いて地域リーグ止まり。両チームが維持出来なくなっているのに感情的なもつれから市場規模も考えずにやってきて、県から最後通牒を受けて統合。その後も全国には行けずに苦しんでいた所J3特赦でJ入り。(これは福島ユナイテッドも似たような経過)
例えば山口。ここもJ3特赦だが、そもそも国体向け競技力強化チームだったので、バックアップスポンサーが弱い。
例えば北九州。ここはJ2ライセンスに腹を立てた監督がチームを見限った。そうまでしないと地域が動いてスタジアムを作ってくれない。
果たして、この状態を成功したと言って良いのだろうか?

スタジアム使用料が馬鹿高い札幌ドームや横浜国際、優勝しても優勝しても市から相手にされない広島……
道半ばと言うには、もう四半世紀も過ぎたのだ。理由になっていない。
ましてや、J3特赦を受ける前に地域リーグで無理して体力が無くなって潰えていったチームがいくつあるのだろう。
そういった失敗事例にこそ学ぶことはあれど、成功した幸せな、たかだか20程度のチームの事だけを語るのは、あまりにおかしな話じゃないだろうか。
(3に続く)

Jリーグ・川淵幻想について(1)

以下は9月にFacebookのタイムラインで書き連ねたものの1回目です。

何故こんな物を書いたのかというと、丁度Bリーグ開幕直前で、まあ「復興会議」さんに沢山「川淵神格化」とか「地域密着神格」とか書き連ねた人が沢山沢山いて辟易したというのが正直な所で。ただ、それを「復興会議」に書いちゃうと場違いすぎるのと、感情論でへそ曲げる人が多いから、だったのね。

※実際には、この前後に個人的な喧嘩を売られた事で「場の空気を乱した」責任を感じて(喧嘩を売られた事が問題では無い。ただ、そういう空気が他の人に迷惑になってはいけないという意味で)離脱する予定だったんだけど、反応しなくちゃいけないような誤謬などが続いていたのでダラダラ居残ってしまった。一応、ライス前に抜けるつもりですけど(どうせまた関西学生マニアがグタグダ言うのが見えているから、そこまで付き合う義理はないと思っている)ね。

その上で、Jリーグをかじった程度の人があじゃこじゃJのまねをしてXにどうこう言うのが我慢ならなかった鬱積を吐き出してますね。
でも、逆にこういう視点をふまえた上でJを手本にするのどうのというのであれば、それは否定されない事だと思うのですわ。

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Bリーグ開幕に当たり、川淵三郎氏の提灯記事がいくつも出てきているようである。
確かにJ開幕時のチェアマンであり、開幕後の読売新聞の「野球型経営論」と対峙して「地域密着型」を定着させた立役者でもあり、Bリーク立ち上げでは対立する二つの思想を統合するために、異論をかなり強引に切り捨てた、という経緯がある。
そこは認める。

ただ、ある時ネットニュースで見た意見に、膝を打った。それにより、私はこのおっさんにたいして諸手を挙げて賛同したり賞賛したりはしなくなった。
それは
「川淵三郎は、自分で新しい何かを生み出した訳ではない」
というもの。
確かに言われてみればそうで、Jチェアマン時代に何か新しい事を0から立ち上げた事は無いし、日本協会キャプテン時代もたいした事はしていない。
※ようは、そういう批判記事だったんだが、言われてみればなるほどだと。

その前後に日本協会OB、岡野誠一郎や長沼健に関わるインタビューやレポートを幾つか見て、なるほどと思った訳である。

確か川淵三郎は、古河電工から日本協会に出向したのは「プロ化準備室」設立のタイミングだ。が、それ以前に岡野・長沼がしっかりと下地を作りレールを引いていた。また、川淵三郎がチェアマンになる前(準備室の責任者時代を含む)に、路線の意思決定をしてきたのは70年代から協会の強化委員だった面々なのである。
準備期間としての「プロ契約の選手を認める」が決定して適用されるまでの間、調整役として方向性を示していたのは岡野であり、関係方面の説得に動いていたのは長沼なのである。
ということから考えるに、川淵三郎は「選択肢を与えたときに、どれが今の方針に合致した中で経営的に最適か」という選択をする事と、方針を維持する為のメンテナンスに威力を発揮する存在なのである。

それはBリーグ立ち上げでもそうで、基本的にbjとNBLは統合が決まっていて大半のフォーマットは出来上がっていた。ところが「企業名がどうだ」「観客規模がどうだ」という、「試合するに関係ない部分」でまとまらなかっただけなのである。
スポナビの連載企画を読んでみれば判る。川淵三郎は経営的なコンセンサスに基づいて切り分けはしたが、それ以外はNBLよりではあるが既に出ていたたたき台に乗っているのだ。

逆に日本協会理事長時代に彼がした事と言えば、ジーコを首に出来ず、千葉からオシムを強奪し(その結果千葉はJ2に沈んだままだ)、W杯に立候補して中東に敗れた結果次の開催チャンスが20年うしろ倒れする事になり、原博実の暴走を制御できないまま政争をまきおこしただけ、なのである。
(2)へつづく