いやいやいやいや。これはひどい本だ。
日本ミステリー小説史 – 黒岩涙香から松本清張へ (中公新書) ASIN/ISBN:
堀 啓子 |
何がひどいかというと、ウエイトのかけ方がひどいったらありゃしない。
- 冒頭、欧米ミステリーの誕生までに触れているが、ポーを否定してディケンズを持ち上げている。まあそれは良いとして、その基準で行くなら須藤南翠「殺人犯」を黒岩涙香「無残」より立てねばならないのに、それは却下。
- 涙香が登場するまでに70ページ、そのほとんどがミステリー以外の物語。
- 「涙香から松本清張まで」としているが、「涙香から新青年前夜まで」に100ページ、「新青年から松本清張前夜」が63ページ、「松本清張・仁木悦子・中井英夫」の所だけで23ページ。
- 新青年時代、宝石時代ともに超有名作家を舐めるだけ。しかも小栗虫太郎はパス、宝石やロックについてはスルー、横溝も『蝶々』パス。
つまり。この人があとがきで触れているとおりなら、「尾崎紅葉が好きで近代文学に入りました。硯友社が探偵小説やってます。今その末裔のミステリが盛り上がってます。その関係を、自分の大好きなエリアを軸に書きました」で、かつ「自分の関知しないところはサラサラ・スパッと孫引き系一般論でいいよね」という無いような訳ですよ。
そもそもこういう議論の際に避けて通れない文学論層(いわゆる「小説神髄」系の純文学論争も、推理小説の中の「健全派・不健全派」「一人の芭蕉の問題」「文学論争」も!)がほとんど扱われていない-健全派・不健全派を表面的に舐めてはいるが、その程度。
ってか、なんか過去の研究をついばんで自分のやったかのように羅列しているだけ。特に谷崎以降は完全に読む価値ないし、これ読むなら古本屋家捜ししてでも中島河太郎『日本推理小説史』とまだ新刊書店にあるはずの郷原弘『日本小説論争史』を並べて読むことの方が有意義だなあ(そこに横田順彌『日本奇想小説史』があればほぼ完璧)